紙と鉱質インク

これらのスケッチは明暗さまざまな心象を(そのとおり)写実した言語記録(紙と鉱質インク)です

2018年に観た新作映画を振り返る

というわけで、去年に引き続き今回で三回目になりますが、映画を振り返る記事を書きました。 今年観てきた24本の映画の中から、印象に残った5つの映画について書きました。その場でメモし後日加筆修正したものになります。【ネタバレあり】7466文字

リズと青い鳥 

『リズと青い鳥』公式サイト

リズと青い鳥』ロングPV

おそらく今後放送されるあらゆる百合アニメ作品に影響を与えることになるであろう、傑作アニメ、それが「リズと青い鳥」です。

吹奏楽部に所属する女子高校生二人の関係をみるストーリーで、水彩画のようなタッチとクオリティの高い音響演出が話題になった、百合アニメオタクの間では大変評価の高い作品です。この作品の魅力のひとつはまさに大きなスクリーンと整った音響設備でないと体験しえないところで、それがゆえに唯一三回見に行った作品です。

注意しなければいけないのが、吹奏楽などの大きな音が流れるから音響が重要であるのでなく(もちろんそれも魅力の一つだと思いますが)、ふたりの女子高生みぞれと希美の掛け合いにある吐息や足音や間が重要であることです。音の高低差が演出にメリハリを与え、ふたりの少女の内面や関係をドラマチックに盛り上げています。映画の鑑賞の仕方には少なくとも二種類あって、ひとつはテレビを大勢で囲って楽しむようなスタイルと、もうひとつは美術館でじっくり絵画と対峙するようなスタイルがあるわけですが、息をするのもノイズになってしまうようなこの映画は後者のスタイルが適しているということです。とある百合オタクが用いた表現を使用するのならば、結論だけ言います。あなたは死にます

これは非常に説明をあたえるのが難しいのですが、私が思いつく言葉はドキュメンタリー映画のような俯瞰視点で見る映画だとか、映像の抒情詩だとかいろいろあるのですが、どれもしっくりこない。というのも、映像がわたしたちに与える印象は名状しがたく、それは言葉で記述できないだろうという心理的抵抗があるからです。ここで「同じように」という言葉を使いたくなる誘惑があって、たとえば、ある一連の詩を何人かで読みあうとして、声や強弱が異なっているにもかかわらず、「私は彼と同じように読む」という意味で「同じように」という言葉を使用したくなるわけですが、そもそもどのようにしてそれを知るのかということとそれはまったく分析になっていないという点で、困惑しているのが現状です。私はいつの日かそれにピッタリする言葉ないし詩句を見つけられるかもしれません。PI254

音響演出が素晴らしいのはもちろん、京都アニメーション描くキャラクターへの人間観察が凄まじい。まつげの震えや瞳の動き、手の動作一つとっても、キャラクターの表情が汲み取って見えることが衝撃でした。なぜこうも人らしく見えるのか。不思議でなりません。

この映画で感動したポイントはたくさんありますが、しいて挙げるなら、今まで揃わなかった2つの足音がひとつになる瞬間ではなく、また2つの足音に別れていくところでしょう。物語的帰結を性急にしない作品構造をしていて、それがあのラストの下校シーンをより情緒的に仕立てています。そこに二人の消えゆく青春の残り香を感じ取ることができるわけです。はたして二人は無事に添い遂げることができるのしょうか。筆者は願って止みません。

[リズと青い鳥みてきた。二つの足音が一つになって、また二つになる物語。ものすごくよくできた絹織物が目の前で編まれていくみたいな緊張感があって大好きです。こういうの #リズと青い鳥]

[そうか、これを繊細さとか透明感という言葉にするのか…と家に帰って感情をもてあますロボットみたいになってる。#リズと青い鳥]

続きを読む