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紙と鉱質インク

これらのスケッチは明暗さまざまな心象を(そのとおり)写実した言語記録(紙と鉱質インク)です

映画『君の名は。』の感想〈大衆作品としての新海作品〉

映画 感想,考察(レビュー)

新海作品は『ほしのこえ』の頃から知っているコアファンなわたし。昨日、映画『君の名は。』を見てきたので感想をかいていきます。ネタバレはほぼありません。が、自己責任でよろしく。

前半は映画を見てない人向けの情報、後半は私が「君の名は。」を見て感じたことを載せています。

公開初日、レイトショーにも関わらず、映画館はほぼ満員。10〜20代が多い印象。小説は既読しておいた。

まさか、出だしに〇〇があるとは思わなかった。アニメーション映画であることを、そこで強く認識されられる。

どこかエンターテイメント寄りで、今までのモノローグを多用した新海作品とは一線を期す演出が多い。そもそも、男女の中身が入れ替わること自体、ひとつのエンターテイメントだ。

過去作のオマージュもふんだんにちりばめられていて、知っている人が見れば、思わずニヤリとできる。

映画と小説版を比較して

映画「君の名は。」に関して、まだ未視聴の人に申し上げれば、映画公開前に発売された『小説  君の名は。』を読むと、物語的補完できて物語の理解はスムーズになると感じる。

映画では当たり前ではあるが、音楽やカメラワークなど、視覚、聴覚による物語への没入感が生まれ、活字から連想される小説版の没入感とはまた違った面白さがある。小説版では三葉と瀧の2視点から描かれているため、映画のように第3者的視点を交えれば、物語に奥行きが生まれ没入感はさらに増すだろう。小説・映画で相互補完的であることを改めて再認識した。これは新海誠監督自身が述べていることでもある。また映画とは別に語られる一つの想いが小説版には存在する。小説を書く予定はなかったと公言する彼が、描きたかった内容になっているのでファンの方は小説版も手に取ると良いかもしれない。

さらに、映画本編の音楽はすべてRADWINPSが手掛けているため、音楽と映像の親和性が強い作品でもある。特に、映画『君の名は。』の主題歌「前前前世」を含む、音響演出は映画館ならでは。CDを購入すれば聴けるのかもしれないが、映画館だけでしか聞けない「前前前世」は必聴。要チェックである。

ぜひ、映画館で、迫力あるサウンドとスクリーンで楽しんでほしい。

『距離』というキーワードは健在!

スクリーンといえば、新海作品に共通するのは、やはり、映像美であろう。都会らしい都会と、自然らしい自然のグラフィックス、カメラワーク、演出効果はたしかに美しい。

しかし『秒速5センチメートル』の頃からか、やや過剰な報道やマスコミにより、新海の意志とは違った捉え方、受け取り方をされてしまったように思われてならない。秒速に関していえば、別にグラフィックスに限らず、もっといろんなテーマ性や演出が散りばめられている。見た目がきれいな「実写みたいなアニメ映画」だけでは収まらないものがある。

例えば、新海作品に共通するテーマに男女間の恋愛を表す「距離」というキーワードが存在する。『秒速5センチメートル』でヒロインと青年の物理的「距離」、『言の葉の庭』では生徒と教師という年の差、社会的身分上の「距離」が存在するとすれば、『君の名は。』は〇〇を使って「距離」を表現しているだろう。映画を見た人ならすぐにわかる穴埋め。いちおう伏せておく。

詳しくはネタバレとなるため、言及は避けるが「距離」をテーマとした新海作品であることは変わらない。では、なぜここまで新海作品は、とくに中高生の共感を得ているのか?それはこの「距離」というキーワードに隠されているのかもしれない。

ずっと何かを探し続けているのはじつは私たちの方なのかもしれない

新海作品の映像美は、アニメーションを用いた私たちの日常にこそ、その本領が発揮される。私たちが何気なく過ごしている日常には、どこか美しい何か、感動すら覚える何かがあるのかもしれない。

たとえば、高校生のころの私は、毎日同じ電車に乗り、同じ車両の右から2番目の座席に腰掛けていた。そのまま4駅分を乗り継ぎ、駅から徒歩10分、見えてきた高校に入る。決められた席で、決められたカリキュラムをこなし、決められた下校時刻に、同様にして帰路につく。そのように過ごすわたしには、日常に潜む美しい何かがどこにもあるように思われなかった。

これはわたしだけに限らず、ただ漫然と、日々の生活を過ごす人に多いように思える。ありふれた日常を過ごすうちに失われた、そのキラキラしたものは、いつからかどこかに消え去ってしまい、きっとどこかにあるような錯覚を覚えているのかもしれない。そうした「距離」を見誤った私たちは、新海作品にふれ共感を覚えている。それは気付かぬうちに、私たちがずっと探し続けていたもの。ずっと何かを探し続けているのはじつは私たち自身の方なのかもしれない。それを新海作品は教えてくれるように思うほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』のように、目の前の日常にも、見上げれば美しい空が広がっているかもしれない。『秒速5センチメートル』のように、桜の花びらをみて、灰色がかった日常に少しの彩りを与えてくれるように。『言の葉の庭』の、雨の日は憂鬱さではなく、世界を映し出す鏡となって普段とは違う世界が待っているのかもしれない。映画『君の名は。』にもそうした一面を見せてくれる。流星群の夜。だから滝と三葉は同じ空の下で同じ星を見上げることができたのだ、と。そんなことを考えてみる。 

要望に答えた結末

『起承転結』は物語を作る上での基本である。例えば、誰もが知る童話「ももたろう」は、川から流れてきた桃からももたろうが生まれ(起)、犬、キジ、サルと仲間を増やしていき(承)、鬼と戦い(転)、村が平和になる(結)という構成である。このように物語は、始まりと終わりが設定され、その中で登場人物たちの活躍やふるまいが存在することで、物語上に流れを作ることができる。そして読み手である私たちは「あーよかったよかった」と、物語を読み終えていくわけである。

私は、新海誠の作品には一貫して、こうした『起承転』の構成は存在せず、むしろ『起承転』 が存在すると考えている。例えば、『言の葉の庭』や『秒速5センチメートル』の終盤、ヒロインと男の子の距離は平行線のまま幕を閉じる。それは、決して結ばれなかった恋や片思いが終わりを迎えただけの描写ではない。彼女らの物語はそこで終わるのではなく、むしろそこから始まりを迎える。考えてみれば当たり前のこと。誰の物語にだって終わりはない。私の物語も、あなたの物語も、どこからともなく、それが始まり、今も続いている。あなたがこのブログを読んでいるのがその証拠の一つだ。ヒロインたちの物語は、たしかにそこで一旦幕を閉じる。しかし、幕を閉じたその先も、彼女らの物語はずっと続いていく。それはある意味「結」を結ぶ「起」でもある。

今回、映画『君の名は。』では多くの人が待ち望んでいた『起承転』に見える構成となっている。『秒速5センチメートル』から待ち望んでいた救いの物語であるというレビューがAmazonで高評価を得ていることが、その事実を明るみにしている。Amazonレビュー→秒速5センチメートルにエグられた男性諸君への救いの物語

傍観者である私たちには、傲慢にも、ハッピーエンドな物語が用意されてほしいという願望を備えている人が少なくない。恋愛映画ではその恋が成就してほしいし、サスペンス映画であれば、物語が解決に向かい、安心させてほしいと願うわけである。今回の映画『君の名は』には、そうした要望に答えた結末が待っている。私たちを楽しませるエンターテインメントとして、それはたしかに仕上がっている作品の受け止め方は各個人の自由ではある。しかし「あーよかったよかった」でおしまいではない。彼女らの物語はこれからもずっと続いていく。一見、「結」のようにみえる「起」が待っていることを述べておきたい。

まとめ

エンターテインメントとして、万人が楽しめる作品に仕上がっている。変にホラーがあるでもない、エッチなシーンがあるでもない(思春期の高校生特有の感情は垣間見れるがw)、クスッと笑わせてくれるところもある。

シナリオに難しいところもないし、映像音楽、演出どれをとっても素晴らしい。大衆作品としてほぼ満点だろう。が、秒速5センチメートルの方が好きだった。小説版が出ても、きっと批難されるだろうから言わなかったけれど。「秒速5センチ」の、あの最期の後ろを向いて旅立つ主人公の背中がバットエンド『結』なわけがない。振り返らずに少し微笑んで、前に進む主人公『起』が好きだった。

変わりゆく新海に喜びを感じつつも、一抹の寂しさ、悲しみを感じた映画でした。

追記

新海作品の抒情詩的な美しさは、すべてRADWINPSの音楽にのせてしまったのではないか。モノローグの語り口や空気感が鳴りを潜めている今作は、ハッピーエンドを望んだ層に受けるエンターテインメントで覆い隠されている。一見したところ、ミスマッチといえるそれらは、RADWINPSの音楽によって結実しているといえるのかも。そう考えると、新海さんってすごいなあと、自分を説得してみているがなかなか難しそうだ。

そんなわけで、暇をみては、いろんな人の感想ブログを漁ってます。こういう活用できるのが、はてなブログの良いところ。面白いこと書く人にひそかにスターを送ってます。面白かったです。ありがとうございます。(面と向かって言えないタイプ)

quoqlish.hatenablog.jp

↑似通ったこと考える人がいたので掲載。リアルとエンターテインメントって、対比させるものかは疑問であるが。

あと、初めて新海さんの作品に関するインタビューを読んだ。やっぱりすごい人なのか

(4266字)

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