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紙と鉱質インク

これらのスケッチは明暗さまざまな心象を(そのとおり)写実した言語記録(紙と鉱質インク)です

映画『この世界の片隅に 』 感想〈あの時代、あの場所に生きていたすべての人に敬意を表して〉

感想,考察(レビュー) 映画

昨日、友人と映画『この世界の片隅に』を見てきました。原作未読でしたが、映画を見て友人と語らい余韻で涙をこらえながら帰宅するほどいい映画でした。

その勢いのままに、このネタバレなしの感想を綴っておきます。

 

初日ということもあり、ほぼ満席。私たちが向かった映画館は都会から離れているせいか、30代から60代が多い印象。中には車いすでいらっしゃっている人もいて、実際に戦争を体験された方もいたように思います。若い人が少ないのは風化し薄れていく戦争への意識の表れでしょうか。

以前からニュースで話題になっていた作品でしたが、詳細は知らず、呉に暮らす少女のビジュアルを見た程度でした。

友人はこの作品を原作から知っていて、クラウドファンディングにも参加していました。彼によれば、『この世界の片隅に』映画監督:片渕須直さんは原作者:こうの史代さん宛てに手紙を送るほど映画化を熱望したそうで、それだけファンによるファンのための念願叶った映画化だったようです。

そんなわけで期待値高めで見てきました。

感想

一言。本当に素晴らしかった…。

今年度は『ズートピア』『君の名は』『聲の形』『プラネタリアン』など数多くの素晴らしいアニメーション映画作品が公開されましたが、個人的に一番かもしれません。

舞台は広島県の南西部に位置する戦時中の呉市です。戦争モノ特有の血生臭さを見せる感じではなく、戦中でもただただ日常を懸命に生きる人々を描いた作品実際に存在した建物や風景がアニメーションで再現されていて、その緻密さに驚かされました。おそらくそこに住んでいた人すらも再現されているのでしょう。開始10分でどれだけの時間と労力が注ぎ込まれたか伝わってくる程でした。
戦闘機や空母艦などディテールも細かく、監督のこだわりが伺えます。エンジン音や焼夷弾の爆裂音もリアリティーがあって痺れますね。映画館でぜひ聞いてみてほしい。こうした資料集めも、戦争からすでに70年近く経ち、風化している現状でさぞ大変だったと思います。監督はファンの鏡ですね。

細かいところを言えば、おばあちゃんから初夜の作法を教えてもらったり、道草をどうにか工夫して食べるレシピだったり、当時の暮らしぶりに直結したエピソードが面白いです。その度にどこか抜けているおっとりした主人公:すずさんが失敗して笑いを誘います。何よりも印象深いのがその困った時の笑顔でした。
すずさんは困ったことによく失敗をして怒られます。その度に見せるあの表情が愛らしいのです。たとえば、顔も名前も知らない人と結婚したり、嫁入りする住所も知らずにいる子なのです。絵を描くことが好きな、どこか抜けた普通の女性なのです。そんな彼女の心境の変化を彼女の表情に注目してみるのも面白いかもしれません。

ですが、2度目見るときは、彼女たちに降りかかる運命を想って、序盤のほのぼのシーンで私は泣きそうになると思います。いや、泣きます(確信)

途中、周囲も感極まってすすり泣く人が多かったですね。戦争により次第に悲惨な出来事が起こっていくわけですが、この映画は別に悲しい物語だけではなく、この世界を私たちと同じように当たり前に生きていこうとする人々にフォーカスを当てることで不思議と温かい気持ちに包まれて笑顔になれます。これについてはすずさんが劇中で理由を語っています。

ネタバレになりそうなのでこれくらいで。ぜひご家族で見てほしい作品です。そして語り合ってほしいです。風化させてはいけない、明日も明後日も続いていくわたしたちの大切な日常は今の今まで地続きなのだから。あの時代、あの場所に生きていたすべての人に敬意を表して。

されば ( 銘記せよ ) 人の命は短く、

その住まう処は地のせまき片隅なり

――マルクス・アウレリウス 『自省録』

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