紙と鉱質インク

これらのスケッチは明暗さまざまな心象を(そのとおり)写実した言語記録(紙と鉱質インク)です

【2017年】今年の映画5選

去年に引き続き、2017年で印象に残った映画をまとめたのでメモ書き程度にご紹介していきたい。選ぶのにずいぶんと難航してしまったが、今年は5つに絞ってみた。ジャンルの偏りがあるけど、いちおう満足。

 去年の記事はこちら↓

monpanache.hatenablog.com

今年映画館で見た新作映画は計39

下の画像が公開順にまとめたもの。f:id:Monpanache:20171223052835p:plain

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記事に書いてない映画で、聞きたいものがあればコメント欄やTwitterでラフにお答えします。

 

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

映画『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』公式サイト

『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』予告

【あらすじ】(Filmarksより引用)

妻が死んで気がついた。彼女のことは、よく知らない。僕はあまりにも君に無関心だった―。 自らの感情とうまく向き合えない哀しみと虚しさを抱え、身の回りのあらゆるもの―妻のドレッサー、パソコン、冷蔵庫、そして自らの自宅までを壊し始めたディヴィス。 すべてをぶち壊してゼロにする―。 “破壊”を経て辿り着いた、人生で本当に大切なものとは―?

  • 喪失と哀しみ、そして再生への旅路を描いた物語。

今年の映画は奪われたもの、手放してしまったもの、あるいは失ったものを恢復あるいは再生する物語が多かったように思える。私はこう言ったテーマに弱いのかもしれない。人間存在を揺さぶる、最もシンプルで普遍的な問題はいつだって「死と生」に関するテーマなのだ。

何気なしに寄った映画館で上映していたので、前情報も特になく鑑賞したが思いのほか良かった。多くの人がすでに指摘しているように、去年公開された映画『永い言い訳』にストーリーラインが酷似しており、妻を亡くした夫の再生の物語である。だが、そのアプローチが違う。今作のディヴィス・ミッチェルを演じるジェイク・ギレンホールは身の回りのあらゆるものを破壊していくのだ。そもそも、この映画の原題はDemolition(破壊)」であり、その名に恥じず次々に破壊していく。とち狂ったように破壊していく彼のユーモアな性格描写はもはやエンターテインメントとして面白いぐらいだ。そして彼は周囲の人びとに後押しされて、一つの了解を得る。

邦題・宣伝による弊害問題についてあれこれ書き殴りたくなるが、今はよそう。では、この長い邦題は何を意味するのか。それは映画を見て考えてみてほしい。すべてを語らず、ただ観客に示されている部分が多いのも、この映画の魅力のひとつなのだから。

ハードコア

映画「ハードコア」公式サイト

【あらすじ】(公式サイトより引用)

愛する人を救いだし、記憶を取り戻せ!
準備はいいか?あなたは今から、愛する人を取り戻すためこの“クレイジーな世界”に放り込まれる。妻であり、絶命したあなたの身体をサイボーグ化し蘇生させた一流の研究者である美女・エステルが、エイカンという奇妙な能力を使うヤツに誘拐されてしまった。道先案内人は変幻自在のジミー。あなたの身体を狙うエイカン率いる傭兵たちを倒し、エステルと“記憶の謎”を取り戻すことが出来れば、あなたの存在する目的と真実を知ることができるかもしれない。幸運を祈る。
  • 技術革新が生んだ最高のエンタメアクション!

映画館でこの映画を見終えたときの脱力感を今でも忘れられない。例えるなら『ベイビー・ドライバー』の冒頭5分をFPSで96分間見せられたような気分であり、『マッドマックス怒りのデスロード』を見終えたような血の滾る高揚感とVRを彷彿させる没入感、そして浮遊感であった。それらを存分に浴びて残ったものは、全身からアドレナリンをすべて出しきり緊張から解放された弱々しい私の肢体であった。

この映画の魅力は何といってもIQが落ちいくようなアクションシーンの数々である。パルクールで建物を縦横無尽にかけまわったと思えば、レーシングアクションをくり広げその上での銃撃戦闘、軽快な音楽が鳴り響く中、謎の組織から追われる主人公が次々と障害を乗り越えていくというのが大まかな筋書き。それがすべてFPPで構成されているため画面上の臨場感を飛び越え、もはや主人公になった気持ちで「体験」していく。

多くの人が語っているようにこの映画はかなり酔いやすい。前述のようにFPSゲーム特有の不快感や過剰なまでのバイオレンス描写が不評の理由として挙げられている。実際、FPSゲームが苦手の人にはかなり厳しいようで、私が映画館で鑑賞していたときは開始10分ほどで途中退出者が4,5人いたように思える。鑑賞する場合は体調がすぐれているときが吉だろう。それほど期待していなかったストーリ―部分はサイボーグという設定を生かした高級なB級映画のシナリオであり、臨場感もあいまって思いのほか楽しませる作りになっている。 

マンチェスター・バイ・ザ・シー

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』公式サイト

アカデミー主演男優賞受賞『マンチェスター・バイ・ザ・シー』予告編

【あらすじ】(公式サイトより引用)

アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー・チャンドラーのもとに、ある日一本の電話が入る。故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョーが倒れたという知らせだった。
リーは車を飛ばして病院に到着するが、兄ジョーは1時間前に息を引き取っていた。
リーは、冷たくなった兄の遺体を抱きしめお別れをすると、医師や友人ジョージと共に今後の相談をした。兄の息子で、リーにとっては甥にあたるパトリックにも父の死を知らせねばならない。

  • 絶望で立ち止まってしまった人たちに送る、新しい一歩の物語

人は同様の行動の機会がめぐってくると信じられる場合のみ後悔する。なぜなら、後悔として体験される悲しみや苦痛は、将来の行動をある別の方向へ向かわせる力を持っているからである。それゆえ人が後悔する場合、これまでの生き方そのものは問題にならない。それに対して、同様の機会が二度と訪れないことを確信している場合、人はもはや後悔しない。なぜなら、改めるべき別の機会がもはや失われているために、後悔しようとしても後悔できないからである。そのとき人は後悔ではなく絶望する。人は絶望したとき、はじめてこれまでの生き方がその人にとって問題としてあらわれてくる

マンチェスターバイザシーには、喪失の絶望、人の弱さ・もろさが漂う。主人公はある取り返しのつかない事件を経験し絶望している。地元に帰ってきた彼は過去の記憶を何度もリフレインし対面していく。一方、パトリックは充実した今の生活を送りながらも父の死を通してひそかに絶望する。けれど、この映画は絶望だけでは終わらない。絶望の先にある最も重要な転機を迎える。それは思い出となってしまった種々の出来事に対する一つの回答であり、了解である。後悔のできない絶望を抱えた二人がどのように対面し、時に対立し了解するのか。

大切な何かを失ったことがある人にオススメしたい映画である。

哭声/コクソン

『哭声/コクソン』公式サイト

3/11(土)公開 『哭声/コクソン』予告篇

【あらすじ】(公式サイトより引用)

村で起こる異常な連続殺人事件。その”真相”はだれの目による”答え”か。目にするものすら疑わねば真実にはたどり着けない。

平和ない田舎の村に、得体のしれないよそ者がやってくる。彼がいつ、そしてなぜこの村に来たのかを誰も知らない。この男についての謎めいたうわさが広がるにつれて、この村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発していく。そして、必ず殺人を犯した村人は、濁った目に湿疹で爛れた肌をして、言葉を発することもできない状態で現場にいるのだ。事件を担当する村の警官ジョングは、ある日自分の娘に、殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。

  •  圧倒的衝撃!ぼや…!(韓国語)と言いたくなる作品。*1

内容が二転三転し次々と変化していく展開。登場人物の誰が真実を語りまたは嘘を語っているのか。そもそも、見えているものは本当に真実なのか。疑心暗鬼の先にある、誰も想像もできなかった結末にただただ震える。じわじわ進むサイコサスペンスの緊張感と強烈な展開に酔いしれる。

見終わった後に考察できる読み解き重視の映画であり、156分もあるとはいえもう一度見たくなる映画でもある。

ジャンル苦手でない限り、今年これを見ていない人は間違いなく見た方がいい映画。

沈黙

映画『沈黙‐サイレンス‐』公式サイト

映画『沈黙-サイレンス-』本予告

【あらすじ】(公式サイトより引用)

17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教 (信仰を捨てる事)したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは 日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。

日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に驚愕しつつも、その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。それも束の間、幕府の取締りは厳しさを増し、キチジローの裏切りにより遂にロドリゴらも囚われの身に。頑ななロドリゴに対し、長崎奉行井上筑後守は「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫る。そして次々と犠牲になる人々―

守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じた事でわかった、強いと疑わなかった自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断とは―

  • キリスト教信仰をめぐる不条理、人間の弱さ・もろさを描く作品。 

宗教的経験の諸相が読みたくなるのは私だけではないだろう。壮大なBGMを流すのではなく雨や海、山の環境音を使い自然描写を示すなど、原作小説を尊重した映画作りがなされている。他にも、窪塚洋介さんの演技によってキチジローの人間らしさが際立っていて惹きこまれる。この映画のもうひとりの主人公はキチジローであるため、彼に着目して見ると面白いところが多い。

またタイトルの沈黙とは神が沈黙していることをあらわしているのではなく、むしろ人々の生き方の内で逆説的に語っていることをあらわすものであり、登場人物たちの言動を通じて信仰心を一片の詩のように物語っている。終盤の改変はスコセッシ監督の個人的な解釈によると思われるので、それについては賛否が分かれるだろう。

 あとがき

というわけで、5つ出揃いました。他にも「ゴッホの手紙」や「女神の見えざる手」なども選びたかったけれど、ツイッタ―等で少し触れたのでご了承ください。来年も良い映画でるといいな。

4500文字

*1: ちなみに「ぼや」の意味は「なに/なんだ!?」です。発音するときは「も」に濁点をつけて発音するらしいですが、「ぼ」に聞こえるから「ぼやあ」だそう。